ダイアログ・イン・ザ・ダークのロゴ

Interviewこころとからだがととのう、
神宮の暗闇へ

2019年11月22日、三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミアに、新たなダイアログ・イン・ザ・ダークの常設施設がオープンします。「内なる美、ととのう暗闇。」をテーマに展開される新たなソーシャルエンターテイメント。今回、そのコンテンツを監修した、身体感覚教育研究者の松田恵美子氏と、曹洞宗長光寺住職の柿沼忍昭氏、そして代表の志村季世恵に話を聞きました。

今だからできた、日本発の暗闇

松田 恵美子
志村:
ダイアログ・イン・ザ・ダークは今年の11月で20周年を迎えました。最初は何もかも手探りでしたが私たちなりに世の中に必要なことを意識し、それを暗闇の中に取り入れることを大切にしてきました。この度、新たに始まるダイアログ・イン・ザ・ダークの「内なる美、ととのう暗闇。」は、世界のどこにもない、日本のオリジナルのコンテンツです。日本文化を感じ、また日本人の持つ素晴らしい特性を改めて感じてみることができたらと思っています。例えば日本人は多様性を受け入れることが得意です。四季折々の行事も多様で、ハロウィンで仮装し街を練り歩き、その後はクリスマス。そして大晦日で除夜の鐘を聞き、元旦で初詣。このように、宗教もいろいろなものが共存しています。日本人はあらゆるものを受け入れて、融合し楽しむものに変えていく豊かな感性がありますが、世の中はストレス社会となり、孤独を感じる人も年々多くなっています。そんな時だからこそ、日本人の本来の持つ感覚を思い出してもらえる場になればと思っています。
松田:
暗闇の中で2時間過ごした後、再び明るい世界に出てきた時に、世界は変わっていないのだけれど、自分が変わっている。それがダイアログシリーズの魅力だと思います。様々な体験の中で、自分の見方や物差しの方向を自分で変えることができるのだ、ということに気づくんです。自分で自分を変えられるのだ、という気付きは、世界を変えるのだということよりもきっと新鮮で驚きに満ちた発見になります。
柿沼:
これまでのダイアログ・イン・ザ・ダークを受け継ぎながら、更に進化したというのが印象です。
松田:
暗闇から出た時、私の体の中ってこんなに豊かだったの?ということに気づけるような、そんな体験プロセスになっているのが面白いですよね。

自分の内側が自然と調和されている、という感覚

柿沼 忍昭
志村:
ストレスがたまり心身の調和がほしいとき、私たちは自分自身を見つめ直したり、ゆっくりした時間を欲します。そのような時にこの暗闇に入っていただきたいのです。自分の立場や役割から解放され、暗闇の中で自分の体や心を解していただきたい。そこで禅やマインドフルネスの要素を加え身体感覚を高めることを大切にしました。「ととのう」という感覚は、心や体に過剰な力が加わった状態が消えバランスが取れた時に訪れます。体験を終えて暗闇から出てきた時に、ご参加者のお顔が柔和になり背筋がスッと伸びていました。また、体験を共有することで人と関わることのあたたかさも改めて感じていただけます。
松田:
まさに、自然とととのう、ということが暗闇の中で起きていました。時間の流れるペースが全く違うんです。この暗闇だからこそ、自分の内側に集中できる、自分の身体に起きていることを自然観察しているような気分になります。
柿沼:
みんなの意識がととのええるというように決まれば、純粋にエネルギーがその方向性に向かっていく。そういう空間、時間の中にいれば自然とととのうんだなと。それを、暗闇という場が非常にシンプルに体験させてくれた。禅もそうだし、マインドフルネスもそうですが、何かを学ばなければならないだとか、特殊な能力を身に付けたいとか、そういうことは多くは必要ないんです。
松田:
まず、「こうしなさい、こう感じなさい」と言われることがない。押し付けがないように、暗闇を案内するアテンドスタッフが私たちをおのずとととのう状態にもっていってくれる。人に言われて気づくのではなく、自分で気づくことが力になるということをアテンドスタッフの皆さんは、お分かりになっているのだと思います。初めは不安で、いったい何が起こるんだろうと暗闇の中に入っていくんですよね。どうやって歩くの?みたいなところからスタートして、足の裏の感覚にビックリしたり、自分の二本の脚でちゃんと歩けるのか捉え直したり。そして、どこからともなく水の音が聞こえてきた時、それは身体にどのように伝わってくるのか…、足が温もりに満ちた時、私達の気持ちはどのように変わるか…。変化は、暗闇の中で自然に起こっていきます。実は、そんな変化のプロセスの中にこそ、私たちを元気にさせてゆくチカラが潜んでいる。出来事を静かに受け入れて、認めていくと、身体の内側のおのずからのパワーは、復活し始めます。暗闇の中では、自分の内側を心の眼で眺めるというそんな体験を重ねていくのですが、『観ることはチカラなり』!そして、私たちの誰もが、そんな心の眼、“心眼”、を持っています。暗闇の中では、人としてのその可能性が呼び覚まされるのだとも思うのです。

神宮という場所に生まれた暗闇

志村 季世恵
柿沼:
禅の世界というのは徹底的な美意識なんです。そぎ落としていきながら何が髄に残るのか、徹底的に極めていくのが禅です。そう考えると、暗闇というのはある種そぎ落とされた空間。初めてダイアログの暗闇に入った時に、自分の今までの修業はなんだったのかと思わず言ってしまったことがあります。そぎ落とすためにものすごく努力するんですよ、禅って。それが暗闇に入ると一瞬にして崩れ去る。あんな空間体験したことがないですよ。それも人工的に作られているのに、ものすごく宇宙的な感覚、どれだけ広いのか、どれだけ狭いのかわからない。声と声、お互いがしゃべる言葉でもって空間が把握できる。そして言葉によって暗闇をも飛び越え別の次元に展開させていく。そんな体験が、この神宮という場所で今回は更に増幅されている気がします。神宮という場の力が、参加者をいい方向に導いてくれている気がしますね。
志村:
暗闇はカタチが見えることはありません。どんな空間も作れてしまうために、人を恐怖におとしめることもできてしまう。そのため人類は暗闇を拒み、光を大切にしてきました。そんな暗闇を平和利用したのがダイアログ・イン・ザ・ダークなのですが、私はそこにその土地に残る気配を大切にしたいと思っています。今回は明治神宮の敷地です。場のもつパワーを活かしながら、暗闇の中で感覚を研ぎ澄まし、自分自身との対話の時間を持っていただき、他者との関わりも感じていただけたらと思っています。
柿沼:
明治神宮は自然の原生林というわけではない。100年も前に人が大きな意志を持ちつくったものです。その場を清め守る人とそこに訪れた人が存在し、時間をかけて神聖な杜になるのです。ダイアログの暗闇も、似ているように思います。あの空間は、広いのかせまいのかわからない、まるで大きな宇宙のように存在している。ととのっていくというのはその力なんだとも思うんです。私たちが生きながら得てきた力というか、人工的に作ることで、その中でとてつもない「自然」が生まれうるというところに、自分はとても感激する。今回新しくできた暗闇は、人が作ったものなのだけれど本当に自然の中にいるような感覚になります。
志村:
人間が作るということは当然、どういう風にありたいかという思いや意志が反映されます。一そういえばお寺は左右対称になっていますよね。
柿沼:
そう。シンメトリーな空間に入ると人間はおのずとバランスをとるようにできている。お寺は左右対称になっています。同様に体も左右対称であるとバランスがいい。人はバランスのとれた場を求めます。だからお寺を訪れた人は気持ちを落ち着かせることができる。

現代社会で、「ととのう」ための新しい選択肢

志村:
沢山の方々の協力で、「内なる美、ととのう暗闇。」は完成しとても素敵な空間になりました。一息つきたい方や、忙しさに翻弄され自分を見失ってしまった時、または、自分を大切にできていないなと感じた時にぜひこの暗闇にいらしていただきたいと思います。そして自分ともう一度出会ってみてほしいです。
松田:
自分という自然に出会えるのが魅力ですね。神宮の暗闇では、きっとさまざまな余韻が身体の中に染みこんでくる体験になるでしょう。
柿沼:
このインタビューの中で何かひとつでも響く言葉があれば、ぜひその方には体験していただきたいですね。

神宮外苑監修者プロフィール

  • 松田 恵美子(まつだ えみこ)

    身体感覚教育研究者

    日々の動作や日本文化における型などを感覚からひもとき、日常生活に活かせる知恵や技として活用することで、自分の身体を自分で育む姿勢を指導。学校教育における教材化の研究協力や企業研修、助産師研修、僧侶とのコラボ講座などに携わる。講座の開催は、築地本願寺KOKORO ACADEMY / umiのいえ / 銀の鈴 / Be Nature School /ほか、北海道、京都、香川など全国各地にて。

    著書:
    『身体感覚を磨く12ヶ月』(ちくま文庫)
    『自分という自然に出会う』(共著、講談社)
    『おとなの自然塾』(岩波アクティブ新書)
    対談『身体感覚に導かれて座る座禅』[「現代座禅譚譚—只管打坐然への道」
    藤田一照著(佼成出版社)
  • 柿沼 忍昭(かきぬま にんしょう)

    長光寺住職・精進料理研究家・禅アーティスト

    1956年神奈川県生まれ駒沢大学卒。20歳で出家し、インド・アメリカを放浪。永平寺で修行。修行中精進料理を学び、食事を通して禅を学ぶことができる「食禅(じきぜん)」を考案。禅アーティストとしては、ダイアログ・イン・ザ・ダークとのコラボなど、墨彩画・インスタレーションを通して幸せをデザインしている。

    著書:
    『食禅 心と体をととのえる「ごはん」の食べ方』(三笠書房《知的生きかた文庫》)
    『『禅、ホッとする考え方』(三笠書房《知的生きかた文庫》)
    『大丈夫』、『命の理』(共著)など。