ダイアログ・イン・ザ・ダークのロゴ

Interviewこころとからだがととのう睡眠について 睡眠の研究者からのメッセージ

インタビュー イメージ画像

「午睡」プログラムは、2人の睡眠の専門家が監修しています。医師の志村哲祥先生からは睡眠の基礎知識、睡眠研究家の西川ユカコさんからは眠りと幸せの関係について、それぞれお話を伺いました。

志村哲祥先生、眠らないとどうなりますか?

健康に生きるために必要な睡眠

人は、睡眠中に、心身の修復を行っています。血管も脳みそも、睡眠中にメンタナンスが行われます。他にも、眠っている間には脳の中のゴミ出しが行われます。認知症の関連物質のアミロイドβなども睡眠中に掃除されるのです。一方、きちんと眠れていないと、体の働きを整えるホルモンの分泌も乱れてしまいます。
眠らないことによる影響の例を見てみましょう。

睡眠時間が少ないと太ります

8時間睡眠の人を基準とすると、6時間未満睡眠では3.3倍太りやすくなるというデータがあります。成長ホルモン、甲状腺ホルモンといった体の細胞の新陳代謝にかかわる物質の分泌が低下し、食欲ホルモンが分泌増進され、満腹ホルモンは逆に分泌が低下します。インスリンが効きづらくなるといったことも起こります。

眠らないと感染症にかかりやすくなります

中途覚醒があって睡眠の質が良くない人は、良く眠れている人の約3倍風邪をひきやすいというデータもあります。睡眠不足も同様に風邪にかかりやすくなってしまいます。

眠らないと死んでしまいます

睡眠不足は心にも影響します。社会人の場合、6時間未満睡眠で自殺リスクが5.1倍になるという統計があるほど。これは子どもたちも同様ですが、日本の子どもは、世界で一番眠らないといわれています。子どもの睡眠時間が圧倒的に足りなくて、深刻な危険域にあります。

睡眠には個人差がある

年齢によって必要な平均睡眠時間は異なり、20代は8時間、30代は7.5時間、40代は7時間、50代は6時間と、平均睡眠時間は年齢とともにだんだん減ります。ただ、睡眠時間は個人差がとても大きく、この平均からプラスマイナス1時間くらいは平気でばらつきがあります。
睡眠時間が短い人を表す「ショートスリーパー」という言葉もありますが、ショートスリーパーは訓練してできるものではありません。睡眠時間は、遺伝によるところが非常に大きいので、がんばってもショートスリーパーにはなれません。

睡眠が足りているかどうかの目安は?

必要な睡眠時間は、個人差や年齢による違いがあります。そしてトータルの睡眠の評価は、量(時間)・質・リズムが大事。とはいえ、睡眠時間が足りていることはとても大切です。普段の睡眠が足りているかどうかは、次のようなことがあるかどうかでわかります。

  • 日中、じっと座ってぼんやりしていて眠くなるかどうか
  • つまらない話を聞いていて眠くなるかどうか
  • 布団に入ってすぐに眠れてしまうかどうか

このうち、3つめの「すぐに眠れる」というのは、眠ろうとしてから眠りにつくまでの時間が数分以内などの場合。いつでもどこでもすぐ眠れるのはいいことと思われがちですが、実は圧倒的に睡眠が足りていないから気絶するように眠ってしまっているだけの可能性があります。

昼寝をうまく活用すると、眠気が取れる

人の睡眠にはリズムがあります。夜がきて暗くなったら眠くなり、朝がきたら目覚めます。ただ、日中にもう一度眠気が訪れる時間帯があります。もしも昼間眠かったりする時には、この時間帯にうまく昼寝をすることで、疲れやパフォーマンスが回復し、快適に過ごすことができます。日中、しっかり活動することによって、夜はぐっすり眠るというリズムを作るためにも、昼間眠い時の良い昼寝は大切な時間です。

パフォーマンスを向上させる昼寝のポイント

日中のパフォーマンスを上げる昼寝には2つのポイントがあります。ひとつは時間の長さ。ベストタイムは10分、長くても30分以内。30分以上の昼寝はNGです。
もうひとつは時間帯。自分の睡眠リズムに合ったタイミングがベストですが、一般的には15時までにしておきましょう。これよりも遅い時間帯に昼寝をすると、夜の寝つきが悪くなったりして夜の眠りが悪化してしまいます。
ただし、昼寝をしても寝不足自体が解消するわけではないということは覚えておいてください。毎日夜にきちんと、その人に必要な睡眠時間を確保することが重要です。

午睡|最適診断 あなたにおすすめの昼寝(午睡)の時間はこちら

眠くなる仕組みって?

人は昼行性の生き物で、今が昼なのか夜なのかを判断しているのが、脳の中にある視交叉上核(しこうさじょうかく)と言う部分。体内時計の本体です。外から入ってくる青い光を、目の網膜にあるメラノプシンという、視覚とは関係ない細胞が感受すると、「青空が見えた、昼だ」と判断する信号を視交叉上核に送ります。夜になって暗くなるとその信号はしばらく途絶え、脳は夜が来たと認識し、そのうち眠る準備を始めます。また、夜には暗い環境下で松果体(しょうかたい)からメラトニンというホルモンが生成されます。メラトニンは脳から血液に乗って全身に分泌されていき、全身の臓器や細胞も「夜だ」と認識する、という仕組みです。

西川ユカコさん、「睡眠で幸せになれる」って、ほんとうですか?

睡眠によって、健康を取り戻した経験

私は、睡眠の状況が悪くて体を壊した経験があります。ストレスフルな生活で深酒するようになり、アルコールによって睡眠不足になり、睡眠不足によってストレスはたまるし体も壊す…という悪循環を起こしていたのです。このことに気づいて、ありとあらゆる快眠法を試し、2年ほど時間をかけて睡眠改善をして今の健康を取り戻しました。こうして快眠についての実践者から睡眠の研究家となりました。詳しい話は著書の「最高の睡眠」に記しています。

心身の健康は睡眠で作ることができる

今、withコロナの時代を通じて、心身ともにバランスを崩しやすい人が多くなりました。一人ひとりが自分で自分の快眠を作らなくてはならない時代となったと感じています。志村先生のお話にあったように、睡眠不足は心身に大きく影響します。
幸せを感じるには、心身の健康が大切でしょう。健康な体をもち、幸せを感じられる心をもつこと。この2つがそろって幸せなのだと思います。
だから、幸せを感じるためのホルモンや体内物質を作り出せる生活が大切です。睡眠に関係するセロトニンや、幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンを分泌させるためには、睡眠によい寝具を用意すると同時に、太陽の光、親しい人とのコミュニケーション、音楽やアロマテラピーなども活用できるといいですね。私たちが運営しているMuAtsu sleep lab.では、快眠しやすくなる体質づくりと、質のいい眠りのための道具選びの提案をしています。人間工学、睡眠医学、脳科学と言った研究者達の研究の成果や知恵を実生活に落とし込ませてもらって、トータルに賢く幸せになれる方法を提供できたらと考えています。いい睡眠をとれると、イライラしなくなり、不安感も減り、人に寄り添えるようになります。

ダイアログ・イン・ザ・ダークと眠りとの関係について、教えてください。

何ももっていなかった子ども時代の幸せを思い出す、ダイアログでの体験 ~西川ユカコさん

以前、ダイアログ・イン・ザ・ダークを体験したときに、私がいちばん幸せだった時代は幼稚園に上がるまえだったと気づきました。天真爛漫で、立っているだけでも座っているだけでも、いつでもそこにいるだけで楽しかったんです。それが、周りからの評価を気にするようになった幼稚園時代から、だんだん幸せが削がれていったような気がします。周りからの評価が悪くならないようにと気をつけるようになりました。優秀でありたい、キャリアウーマンになりたい、もっと社会のお役に立てる人間になりたいと、ずっと努力して生きてきました。
それが、ダイアログに参加したときに、3歳前の楽しかった自分に戻れたのです。3歳の自分はひとりでは何にもできなかったのに、ほとんどのことが自分でできるようになり夢だっていくつも叶っている今のほうが不幸せってどういうこと?と思ったんですよね。
何もできなかったら、助けてって言えばいいんだということに、暗闇の中で気づきました。普段、いかに「助けて」と言えないかということも思いました。

自分がそんな体験ができたからこそ、今回「内なる美、ととのう暗闇。」で暗闇の中で眠るという体験を通して、皆さんがそれぞれの幸せに気づく機会になったら、すごくうれしいです。

「引き算」してシンプルに眠る大切さに気づくチャンスに ~志村哲祥先生

ダイアログは引き算のアートだと言われますよね。私は、人は誰でも基本的に幸福なのだと思います。そこに不幸だと思う要因が積み重なってしまうことで不幸になっていく。だから引き算ができていけたらいいのではないでしょうか。誰かと自分を比べるとか、何を持っているかといったことを引き算していくと幸せになれるのでしょう。

睡眠も引き算が重要。何もなければうまく眠れるはずなのに、睡眠を邪魔するものが多くて眠れないということが多々あります。邪魔とは何かというと、カフェインやアルコールの摂りすぎだったり、寝る間際までスマホを見ていたりして、夜が明るすぎたり。真っ暗闇での午睡を楽しむことで、引き算してシンプルに眠ることの大切さを思い出すチャンスになると良いなと思います。

ととのう「午睡」監修者プロフィール

  • 西川 ユカコ(にしかわ ゆかこ)

    睡眠研究家・昭和西川副社長

    睡眠研究家。昭和西川副社長。出版社に勤務したのち、11年前に昭和西川に入社。MuAtsu sleep lab.を監修。著書に「最強の睡眠」(SBクリエイティブ)。

  • 志村 哲祥(しむら あきよし)

    東京医科大学精神医学分野兼任講師
    (睡眠健康研究ユニットリーダー)